分（読み）ブン

1. 〘 名詞 〙 ( 多く数詞に付けて用いる )
2. [ 一 ] 数量を分けること。また、分けた数量。
   1. ① 一定の数量をいくつかに等分すること。また、等分した数量。
      1. [初出の実例]「其田租為_二二分_一。一分入_レ官。一分給_レ主」(出典：令義解（718）賦役)
   2. ② 全体の数量をいくつかに分ける比率、割合を表わす単位。
      1. [初出の実例]「凡国司処_二分公廨_一式者、〈略〉其法者、長官六分、次官四分、判官三分」(出典：続日本紀‐天平宝字元年（757）一〇月乙卯)
   3. ③ 全体の数量を十等分したものの割合を表わす単位。割(わり)。
      1. [初出の実例]「凡田有_二水旱虫霜_一。不熟之処。〈略〉十分損_二五分以上_一免_レ租」(出典：令義解（718）賦役)
      2. 「友をえらばば書を読みて、六分の侠気四分の熱」(出典：鉄幹子（1901）〈与謝野鉄幹〉人を恋ふる歌)
      3. [その他の文献]〔調謔篇‐七分読〕
   4. ④ 全体の数量を百等分したものの割合を表わす単位。割(わり)の十分の一、厘(りん)の一〇倍。パーセント。
      1. [初出の実例]「Ichiuariichibu(イチワリイチブ)」(出典：ロドリゲス日本大文典（1604‐08）)
      2. [その他の文献]〔算経‐小数〕
3. [ 二 ] 物事の度合。割合。
   1. ① ( 自分の方への比率の意で ) 自分の立場がうまくいく度合。→ぶ（分）が悪い。
      1. [初出の実例]「安子の側に〈略〉多少の歩はあるにしても」(出典：普賢（1936）〈石川淳〉六)
   2. ② 強さなどの度合。
      1. [初出の実例]「腕(かひな)の筋を抜れしかば、〈略〉弓も又分(ブ)を減ぜしが、弓勢は衰へず」(出典：読本・椿説弓張月（1807‐11）残)
   3. ③ 厚さの度合。また、厚み。「分が厚い（薄い）」「分がある（ない）」など。
      1. [初出の実例]「いや此の位の分(ブ)があっては、無疵でござりますから」(出典：歌舞伎・人間万事金世中（1879）序幕)
4. [ 三 ] 単位を表わす。
   1. ① 長さの単位。
      1. (イ) 尺(しゃく)の百分の一、寸(すん)の十分の一、厘(りん)の一〇倍の長さ。曲尺(かねじゃく)で約〇・三センチメートル。〔令義解（718）〕 〔説苑‐弁物〕
      2. (ロ) 足袋(たび)・靴などの底の長さの単位。文(もん)の十分の一の長さ。「十文三分」
      3. (ハ) 銭貨の直径の十分の一の長さ。一文の直径を一寸として、その十分の一の長さ。〔随筆・世事百談（1843）〕
   2. ② 重さの単位。
      1. (イ) 両(りょう)の四分の一、銖(しゅ)の六倍の重さ。
         1. [初出の実例]「於_二部内廬原郡多胡浦浜_一、獲_二黄金_一献_レ之。〈練金一分、沙金一分〉」(出典：続日本紀‐天平勝宝二年（750）三月戊戌)
      2. (ロ) 匁(もんめ)の十分の一の重さ。ふん。
   3. ③ ( 「歩」とも ) 貨幣の単位など。
      1. (イ) ( 重さの単位から転じたもの ) 金貨・銀貨の単位。両(りょう)の四分の一、銖(しゅ)の四倍の価。〔ロドリゲス日本大文典（1604‐08）〕
      2. (ロ) 銭貨の単位。文(もん)の十分の一の価。
         1. [初出の実例]「今銭幾文を幾字といふ人あり。〈略〉一文は四字也、是後世は銭面に必四字あればなり、〈略〉即、銭文之一字、蓋二分半也とあり」(出典：随筆・梅園日記（1845）三)
         2. [その他の文献]〔算法統宗‐彙法章・銭鈔名数〕
   4. ④ 体温の単位。度(ど)の十分の一。
5. [ 四 ] ( 「歩」とも )
   1. ① 「いちぶきん（一分金）」の略。
      1. [初出の実例]「さて、二三度めのくはひに〈略〉酒一つなどいふて、取つくろはす、分一つかふたつとらせてよし」(出典：評判記・吉原すずめ（1667）上)
   2. ② 江戸、吉原で、座敷持の遊女をいう。金一分以上の揚げ代を取るのでいったもの。
      1. [初出の実例]「『ヘ、分でござります』『ぶとはげせぬ』『イヤおざしきもちでござります』」(出典：洒落本・自惚鏡（1789）)
6. [ 五 ] ⇒ぶ（歩）[ 二 ]

分の補助注記

「分」は呉音「ぶん」漢音「ふん」慣用音「ぶ」であるが、日本では、度合や度量衡の単位としては、「ぶ」が一般的である。

1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
   1. ① 分けられた部分。分けまえ。
      1. [初出の実例]「嫡孫庶孫各承_二父分_一」(出典：令集解（738）田)
      2. 「其中己が分の饌を以て」(出典：日本霊異記（810‐824）上)
   2. ② その領域・範囲・種類に属する部分。
      1. [初出の実例]「此皇子、風骨不_レ似_二世間人_一、実非_二此国之分_一」(出典：懐風藻（751）大友皇子伝)
      2. 「四五番までは破の分なれば」(出典：花鏡（1424）序破急之事)
   3. ③ ある範囲の分量。その相当量。
      1. [初出の実例]「只今のいひわたしのぶんにては、世に住甲斐はなかりき」(出典：浮世草子・好色盛衰記（1688）二)
   4. ④ 身分。身の程。分際。また、力量の度合。
      1. [初出の実例]「已足_レ分、於_レ今者、従_レ有_二非常_一、何恨之有哉」(出典：左経記‐長和五年（1016）四月三〇日)
      2. 「貧しくて分を知らざれば盗み、力おとろへて分をしらざれば病を受く」(出典：徒然草（1331頃）一三一)
      3. [その他の文献]〔淮南子‐本経訓〕
   5. ⑤ ( 形動 ) 本来的にそのように認めたり、そのようにしたりするのが、当然であること。また、そのさま。
      1. [初出の実例]「分の敵を討て、非分の物をうたず」(出典：保元物語（1220頃か）下)
   6. ⑥ 他と区別される状態や段階・様子。ありさま。
      1. [初出の実例]「このときはじめて、生死をはなるる分あり」(出典：正法眼蔵（1231‐53）生死)
      2. 「しかし其様な事を苦にしてゐた分(ブン)には埒が明かない」(出典：浮雲（1887‐89）〈二葉亭四迷〉一)
      3. [その他の文献]〔荀子‐不苟〕
   7. ⑦ 仮にする状態。ふり。かっこう。
      1. [初出の実例]「我は此世にはない分(ブン)にして隠ゐるを」(出典：浮世草子・風流曲三味線（1706）一)
   8. ⑧ 限定される程度や事がら。それだけの事。その程度。
      1. [初出の実例]「けりゃう、三体の外はさいどうまでの分にて候」(出典：禅竹宛世阿彌書簡‐永享六年カ（1434か）六月八日)
   9. ⑨ ( 形動 ) 一般のものとちがっていること。一般のものとちがって、よいさま、すぐれているさま。特別。格別。結構。
      1. [初出の実例]「やしきひろくば竈をぶんにすへて、水をひなた水にし」(出典：浮世草子・立身大福帳（1703）七)
   10. ⑩ 一定の数量をいくつかに等分した数量。また、それによって比率を表わす単位。
       1. [初出の実例]「又売掛(うりかけ)も、たとへば十貫目の物、みつ壱(ひと)ぶんにして三貫目と請払ひすれば」(出典：浮世草子・日本永代蔵（1688）五)
   11. ⑪ 全体の数量を十等分したものの数量を表わす単位。割(わり)。ぶ。
       1. [初出の実例]「其子を養はかすに二百匁、肝入が分(ブン)一に廿匁取」(出典：浮世草子・新色五巻書（1698）五)
   12. ⑫ 長さの単位。寸(すん)の一〇分の一。ぶ。〔ロドリゲス日本大文典（1604‐08）〕
2. [ 2 ] 〘 造語要素 〙 ( 名詞につけて用いる )
   1. ① それに相当するもの、それに見合うものの意を表わす。「苦労分」「辛労分」「一人分」「追加分」など。
      1. [初出の実例]「ソノ ytocubunni(イトクブンニ) マ ヒトエダワ ワレニ クレイ」(出典：天草本伊曾保（1593）獅子と犬と狼と豹との事)
   2. ② それに相当する身分・立場であることを表わす。「大将分」「士分」など。
      1. [初出の実例]「火燵にも四人の外は借屋分」(出典：俳諧・二息（1693）)
   3. ③ その身分に準じるもの、また、仮にその身分に見立てるものの意を表わす。「母親分」「兄弟分」など。

1. 〘 名詞 〙 単位の名称。促音、撥音に続くとき「ぷん」となる。
2. ① 重さの単位。また、銀目の単位。匁(もんめ)の一〇分の一、厘(りん)の一〇倍。ぶ。〔ロドリゲス日本大文典（1604‐08）〕
3. ② 時間の単位。一時間の六〇分の一、一秒の六〇倍。
   1. [初出の実例]「一時を六十分とし、一分を六十秒とす」(出典：暦象新書（1798‐1802）中)
4. ③ 角度や、経度・緯度の単位。度(ど)の六〇分の一、秒の六〇倍。
   1. [初出の実例]「夫より以来、漸く離れ、今に至ては五度四十余分の処に在り」(出典：北極出地測量艸（1834）（古事類苑・文学四一）)